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読書は他者理解と内省に便利なツールと再認識「苦役列車」西村賢太 新潮文庫

私小説が読みたいなあ、と選んで読んだ数冊のうちの一つです。

努力をすることが苦手で、その過程を経ずに成功したい、人に認められたい、といった性質を持った人間は、この世の中不利だなあ。

というのが偽りのない思い。

でも、いるでしょうこういう人。自分では何もしないのに口ばっかりは達者。特に、「なぜいきなり?」というタイミングで人に急に攻撃的な、自分を物凄い高い所に置いた破滅的な言動を行う人。

通常の人に理解できない人間関係パターンを繰り返すのですが、その自分の疑心暗鬼→それを疑わず真実とする→他者に攻撃する、と言った認知フロー、心の判断が克明にわかります。

それを見て、自分も近しいところは無いか?疑ったことを真実と思いこんで、現実を悪いほうに展開してないか?と自省することもあります。

他者理解と内省ということが、この軽い本一冊で行える、読書の有益性について改めて感じる一冊でした。

苦役列車での貫多は若い、20歳前後の設定だったのですが、もう一編の「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」では一変して40男になってしまっていて、一気にNHKスペシャルのような、孤独・老い・貧困といった様相が前面に浮かんでしまい、こちらは読んでいて怖くなってしまいました。

ただし貫多たちにとってみれば中学を卒業してから変わらない道だったわけで、体の変化、社会的な変化以外そこまで大きな差はないのかな、とも思います。

私なんかはもう怖くて努力してしまいそうです。それを考えると、意志の強い、勇気のある選択を貫いているともいえるのかなあ。

ただ、西村賢太さんが読むこと・書くことに対し真摯に努力をすることが苦ではないのか、その苦だけは受け入れることができたのか、そのどちらかであることは確か。

今後、貫多という人間がどうなっていくのかが不安メインで、気になるところです。

Amazonを見たら、最新刊が来月発売されるようですね。随筆集のようです。

この間読んだナビ・タリョン(強烈な違和感の存在を心に留め置くことに「由熙 ナビ・タリョン」李良枝 講談社文芸文庫)のほかに塩壷の匙
を読み、赤目四十八瀧心中未遂をまさに読書中。そうだ鷺沢萠柳美里もチェックチェック。
愉しい、読書。

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