読者にふさわしい箱を見せている 奥深い粋者の物語。 「濹東綺譚」 永井荷風 新潮文庫
岡野さんの本(岡野さんに元気をいただく メシが食いたければ好きなことをやれ! 岡野雅行 こう出版)や、吉行淳之介さん関連の調べ物をしている時に出てきて、
いつか読みたいなと思っていたものを、ふらりと手に取りました。
思ったより厚みは薄く、そして知らない単語がたくさん出てきた
わけですが、それがわからなくても、いったんおいておいても
話の大意は伝わってきます。
今はその跡ですらも残っていないような街並みを、
自分の頭の中に広げてくれる詳細な描写に、突然の雨から始まる
男女の仲。
屈折している主人公の女性観から映し出されるお雪は実際、
描かれるような女性ではないのでは、とも思う。
でもこうして主人公の世界の中で美しく輝き、そして別れていく様、
ラビリンスの世界は美しい。
ちょっとの気持ちが、読むことをやめられなくなり、あっという間に
読んでしまいました。
知らない単語、漢字を一個一個調べていく方が時間がかかった
気持ちがするくらいです。
そして調べていくと、その知識が広く漢詩、文学作品その他もろもろを
根底にしたもので、その意味をわかるのとわからないのでは、
また見える世界が違ってくるんだなと感じました。
作中作もあることもあり、入れ子構造になっていて、その読者読者に
ふさわしい箱が見えているのでは、という気がしました。
年を重ねて、もっと深い世界を感じるようになるといいな。
花柳界、雨ということで吉行淳之介さんの驟雨を思い出しましたが、
時系列ではこちらが数十年昔。
そして上野千鶴子さんによると永井荷風さんも吉行さんも
女性蔑視傾向が強いとされていることが興味深いですね。
確かに所帯を一緒にすると懶婦になるか悍婦になるって
それが生活だと思うし、そうさせるのはお前だよって話ですからね。
粋者って夢見る夢男くんなのか。
上野千鶴子さんのご意見も詳しく知りたくなってきました。
<解説読んで読みたくなった本>
銀座のカフェーが舞台のお話とのことで。
法廷の事件としての方が有名ではないかしら、「四畳半襖の下張」
が掲載されている巻。
吉原の風俗がよく描かれているとのこと。
上に同じく。
<関連書籍>
驟雨も好きです。
上野千鶴子さん、読もうよもうと思って読んでなかったから、
読むならこれだな。