独特な世界に浸っていくだけ。「塩壺の匙」車谷長吉 新潮文庫
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独特のことば選び、文の置き方。
最初ごく短い短編が続き、リズムを取るのに難義するものの「萬蔵の場合」という作品ですっかり心とらわれました。
映画を見ているように、瓔子の部屋が浮かびます。描写にはないけど、部屋の引き戸はこうで、照らされる照明はこの明るさで部屋の隅は暗くて、というようにそのアパートが見えてくるような力を感じました。
そこからはこの独特な世界に浸っていくだけ。
静かな、そして暗い影を常にたたえた、どこかあたたかみのあることばたちに伴われ、あてもなく東京を、そして田舎をさすらう。
とてもゆたかな時間を過ごすことができました。
今、赤目四十八瀧読書中。
これまた、もう安アパートの動向から目が離せない。
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