ジニのパズルを読んで読むシリーズ その1 川崎特有の地理感覚「葉桜の日」鷺沢萠 新潮文庫
鷺沢萠さんという、10年ほど前にその訃報を聞いて知った作家さん。
18歳で文学界新人賞受賞。当時最年少受賞。
上智大学の1年生でこのビジュアル、となると当時騒がれたのでしょうねぇ。
しかし、その後取材を通して自分の父方の祖母が韓国人だと知り、そこから韓国へ留学。
とウィキペディアに書いております。
自分が全くそうだと知らなかった人による作品ということで、これまた他の作家とは異なる体温ではあります。幼少期の差別、ということがもちろんなかったわけで、登場人物も成功してお金持ちのお宅が多いです。
2作品が入っております。
葉桜の日
「葉桜の日」の舞台のひとつは、第三京浜の川崎インターを降りて車で15分南下した、南武線の線路沿いの弁当仕出し工場。
ここで皆さまが正しく読み解けたかが疑問であります。
実際問題、第三京浜の川崎インターを降りて車で15分南下したら、南武線から離れて横浜方面へと進んでしまうのですよ。
川崎特有の地理感覚というものがありまして、ここでいう「南下する」とは、川崎方面に向かうことを指します。東なんですね。
川崎では東側のことを「南部」と呼び、西側を「北部」と言います。
アメリカでは農業が盛んな南部、工業が発展する北部でありましたが川崎では南部が工業、ブルーカラーに対して北部がホワイトカラーなイメージであります。
つまり、川崎インターを降りて車で15分の南武線沿いってなると武蔵中原と武蔵小杉の間
ぐらいかなぁ、と読み解くのですがこれ読者のどれだけの人にわかるんだ。
「川崎南部」って言い方をしているので、鷺沢さんはこのあたりを取材なりなんなりで把握したうえで書かれているんですね。
韓国の方も多いのだけど、実際他の国の方も実は多くって、もはやナニジンだからってどうこうしてられない地区だったりするわけですが、そこで主人公ジョージは
「僕は、ホントは誰なんだろうね?」
という疑問を抱くことになります。
このジョージの思いは取材の上で自分の知らないことを知ることとなった鷺沢さんの疑問そのものであったのかな。
冒頭、志賀さんが言ってる
人の生きていく方法や道はさまざまで、どれが最高ということはない。ただ、自分のめいっぱいに真実で生きていればいい。
ということばは、結構わたしの胸にああ、そうだなと響いたんだけどね。
19のジョージは、これから悩んで行けばいいんじゃないかなぁ。
果実の舟を川に流して
「果実の舟を川に流して」は、中華街での話。あのあたりの赤い独特なネオンを浮かべながら、読みました。
一転、ヨコハマの人たちが織りなす、おしゃれな空気が流れる作品。
巻末の解説を読んで確かに、22とか23歳で書かれた本には思えないなぁと、若い者らしい甘え、のようなものの排された文章を見て、思いました。
もう一冊を読むのが楽しみになりました。
10月20日読了