死へ反抗する執念から作られた本「炎を越えて 新宿西口バス放火事件後三十四年の軌跡」 杉原美津子 文芸春秋
バス放火の被害者、スクープ写真撮影が実の兄、生死をさまよい、退院。
その筆者が自宅療養中に発刊した本を読み、(事件を、ライターとしても書き、そして被害者としても書く。「生きてみたい、もう一度」杉原美津子 文芸春秋)
三十年後の著者はどうなったかというと、輸血で非加熱製剤が利用されていて、C型肝炎へ。
前の本が発刊された時は、非加熱製剤、薬害エイズといった事件が起こることを利用者は知ることもなく帝国京王バスの輸血提供者が記載されていたのですが読んでいるこちらはその未来を知っているだけに、辛い。
杉原さんより一回り下、20代で被害にあった方は顔にケロイド跡が残り、独身のまま、40代で肝硬変を引き起こして亡くなっていた。
その方の悲しい障害を知るに、被害にあった方、そしてその家族は一生を狂わされた形になったと、その他にもいらっしゃった重症被害者の方の人生がどのようなものなのか、悲しい思いにとらわれます。
その事件を起こした犯人は、仮出所を前にして自殺。
施設に預けられていた息子さんの人生というのも、施設を出てから行方がわからないということで、ここにも暗い影が。
この新宿西口放火事件を軸に、杉原さんの半生と、さまざまなエピソードが語られます。
杉原さんがこの本を書かれるときは、余命半年。
一度は、ガンがなくなった、ということもあったのですが再発したと書かれています。
そのこともあって、後半だんだんとまとまりがなくなってくるようにも感じます。推敲を十分にすることが出来なかったんだろう、と思われます。
そしてその乱れが、死へ反抗する力が読む者を揺さぶります。
この力が、執念が文芸春秋から本を出させたのか。
杉原さんは、この本が出版されて半年も経たずに、お亡くなりになりました。
12月1日読了
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