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圧倒的な、事実を積み重ねてきた者のみがもつ言葉の重み「戦前の少年犯罪」管賀江留郎  築地書館

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何かのコラムでライムスターの宇多丸さんが絶賛していた本。
宇多丸さんと言えば、学生時代の知り合いのお友達、というイメージがあるものですからなんとなく親近感を抱きながら、記事を読みました。

そのコラム自体は作者の管賀江留郎さんの新作の紹介だったのですが、コラム冒頭に述べられたこちらの本からまずは読もうじゃないですか。

表紙を見ると(少年犯罪データベース主宰)という文字が。
なんだ、お世話になっている人の本。

寝付けない夜、ひたすらに少年犯罪の記録を辿っていく。

何百とある事例を順番に、ひたすら読んでおりました。

なぜ、そんなにも事件の記録を読んでいくのか。
それは、犯罪という非日常に対する興味もあるでしょうが、どうして犯罪者が生まれ、どうして被害者が生まれたのか。
情報を自分の中で蓄積することによって、自分のまわりの犯罪者予備軍の兆しを予見し、避ける。
また、何か起こった際、自分の中のこのデータベースの中から、少しでも有用な行動が取れれば。
そんなリスクテイクのために情報を調べているような気がします。

さてこの本ですが、戦前について「小学生が人を殺す」「脳の壊れた異常犯罪」「親殺し」「老人殺し」といったようなテーマにそって、全国にある新聞の記事と補足説明がされていきます。

この本がwebサイトと違う醍醐味は、一つひとつの記事を集約したそのテーマに対する管賀さんの考えが読める、ということでしょう。

繰り返し、管賀さんは皆さんが思っている戦前とは、データを読むと全然違うんですよと警告を発します。専門家と称する人たちも何を根拠にしゃべっているのかわかったもんじゃないですよ、と繰り返し話します。

実態というものは、漠然としたイメージではなくひとつひとつの事実を検証してみて初めてわかるものです。事実を突き詰めていく態度、少なくとも事実を突き詰めていかないと何もわかるはずがないということをあらかじめ知っていることが、一番基本的な教養というものです。

この一番の基礎がないと、その上にどのような情報や知識を積み重ねようが実態とは懸け離れた歪んだイメージにしかなりません。

P287

管賀さんにはその圧倒的な、事実を積み重ねてきた者のみがもつ言葉の重みがあります。

図書館には、新聞やその他事実を表したものには、きちんと当たってみる必要があると、思い自分の発言を顧みる。

改めて、情報を確認する、ネットにあることを鵜呑みにしない、ということを考えさせられる本でありました。

管賀さんの豊富な知識量と、おしゃれな不良の名前などのエッセイにくすりとしたり、伊勢丹の恐ろしいほていやの買収話など、そういった部分も大変、楽しかったです。

9月30日読了