記者の思いが詰まった本、また読みたい「母さんごめん、もう無理だ きょうも傍聴席にいます」朝日新聞社会部 幻冬舎
のっけから記事がはじまる。
淡々と、しかし、淡々とと言うには強烈な事件の内容。主に殺人、あとは詐欺など。家族を殺したり、子供を虐待していった人間の事件の裁判の状況、そして判決がひたすら続いていく本。
新聞社には、「きょうも傍聴席にいます」という、刑事裁判を担当してる記者がいるという。日々傍聴し、その結果記事になるのはごくごく短い記事のみ。
しかし、そこにはかくのごとく人間ドラマが繰り広げられているので、書きたいー
記者の思いからデジタル専用のコーナーとして始まり、この本になったとあとがきを読んでわかりました。
記事を読んでいると、犯人特有の考え方に気付く。
被告「盗んだあと、ほっとした。無施錠の自転車がずっと同じ場所にあると、どうしても犯行をしたくなるというか」
P72 大島ダンシングこと大島繁雄被告
被告「努力とは、報いのない義務としか感じていなかった」
P111 黒子のバスケ事件の被告
環境ももちろんあるが、その中でも独特の考え方をもったものが、犯罪の世界へと向かっていく。
この独特の考えは、人間の体の、脳のどの部分が影響するのか。そんなことを考えてしまう。
かつてそれの仮説から行動に移してみたのがロボトミー手術で、副作用などが起こってしまったわけだけれども、そのような、意志や抑制の力ではどうにもならない個所への対処は無い物か、と現在の、最新の医療はどうなっているのかしらという思いが湧く。
さまざまなドラマの中で、印象深いものをいくつか。
息子の介護を受ける64歳の母と、39歳の無職の息子。
人づきあいが苦手だった2人は、毎朝、則子さんが集めていたキューピーの人形をそれぞれが持って、人形劇のように「打ち合わせ」をしていた。
P83
ホラー。
失敗を恐れて、学生時代から何かあると放火したり脅迫を繰り返してきた医師。
精神科医も証言に立ち、阿藤被告が大学時代に最初の放火をしたあと、「卒業生を送る会」が延期になったことが「成功体験」になったのでは、と分析した。
P145
自分の中で、失敗を自分のものとして、辛くても受け止める。逃げない、という精神を、体験をすることがいかに大事なのかなぁと社会に出て本当に思います。自分も逃げがちなんだけど。そこを自覚的に生きたいのです。
1歳になってすぐの娘を育児鬱になって首を絞殺した母親。
事件前日。長女が初めてスプーンを使った。義父はうれしさのあまり、「これからが大変だね」。うれしさと同時に、被告はプレッシャーに感じた。
P211
これを引き金に、娘を殺してしまったので義父は一生、悔やむのではと感じてしまう。
この女性は、大阪の大学に進学したが、両親の希望もあって島根に戻って高校教師に、という経歴があり、この一人娘としての両親との育ち方に何かあったのかな、と想像してしまう。
今後、いくらでも出せそうなテーマ。
出ないくらい平和になればいいんでしょうけど、こればっかりは。
記者の思いが詰まった本、また読みたいです。
1月19日読了