未来の芥川賞か? 文学新人賞受賞作を読む その1「十七八より」乗代雄介 講談社
芥川賞を取る人、というのはどのようなプロセスを踏んでいるのだろうと昨今のフィーバーの中ふと思い、ちょっと調べてみまして。
文学賞の新人賞、その新しい作品と、受賞作一覧の中で気になる作品を搔い摘んで読んでみようではないか、と思い立ちました。
その一冊目。
2015年、本作にて第58回群像新人文学賞を受賞。という最新作でございます。
うーん、独特といいますか、前半はもう読むのをやめようか、と思っていたのですが後半は集中して一気に読めてしまいました。
読み終わって、ハテ、この作品は何を伝えたかったのか全く分からないぞ、と思いページをめくると選評の抜粋が。
高橋源一郎氏、多和田葉子氏らによる選評が。
伝えることを捨てたことによって成立する本なのか、そうなのか。
そう言われると選評での解説見てああそうだった、そんな話だったと思い出す次第。
言葉あそびを楽しむには、また荒削りか、でもそれゆえの新人賞か。
個人的には、人称の「韜晦」により結局誰のこと話しているのかわからなくなったのでちょっと置いてかれた感が強かった。
ホームビデオを映画に仕立て直そうという時は、誰だって名字の刻まれたディレクターチェアに深々と座る自信家に変貌するのだ。
編集作業を厭わなければ、無限の素材が保証されている。
散文による演出指針としては、ここに現れた出来事は、彼らがどれだけ好き勝手にやっているとしても、またある法則に閉じ込められているとしても、そっとしておくことにしようということに尽きる。
この文章を読んだときには、この家庭の焼肉をするテーブルの様相が透明な立方体に包まれたプラスチックあるいはビニールのオブジェのように見えたので、
独特のことばが作る世界観が今後よりどのようにぎりぎりの加減で人に伝わっていくようになるのかが作家としてどう評価されていくかにつながるのかな、と思いました。
こういう感じで、またちらほら、新しい新人賞作品を読みたいと思います。
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