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「熱愛」とあれど緩慢な「ぼく」による殺人に見えた 「八つの小鍋 村田喜代子傑作短編集」文春文庫

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グーグル+mono sashiさんからおすすめいただきました。

結果、夢中になって読みました!mono sashiさん本当にありがとうございます。

1987年に97回芥川賞を受賞した「鍋の中」を含む短編集です。芥川賞に女流文学賞、平林たい子賞、紫式部文学賞、川端康成文学賞と諸々の賞を受けている大作家さんですが、お恥ずかしながら初めて知りました。

最初の「熱愛」が短いのだけどもぐいっと惹きつけて離さない力量のある作品で。

1980年代後半という30年近く前の世界が、私にとってはとても古い時代であるのですが、この文章の中にはその古さが無いなあ、なんて思いながら、相当バイク好きなのだろうか、と思わせる臨場感あふれるツーリングの描写。

「熱愛」というタイトルではあるが緩慢な「ぼく」による殺人に見えてしまうのは

どれも新田の方が上だが引張るのはぼくだ。一種の精神的力関係。いいだしたらぼくはしつこい。新田は折れるしかない。

 

ぼくはしつこい、新田はやがて陥落する。いつものことだ。

というような描写が何度も続くため。自分はスピードを上げるのに、新田がいざ前にたち、スピードを上げていくと「距離をあけた方が自由に走れる」と距離をあけてしまう「ぼく」に物凄い傲慢な気持ち、残酷さを感じびっくりしました。

全く語られないのですが行間から感じられる新田の行動にジェームスディーンのエデンの東の兄だったり、理由なき反抗のチキンレースを思い浮かべながら、ページを行きつ戻り反芻つしながらラストに行かないようにしていましたがいよいよラストに。

物語が終わった後の世界を想像して、ああ、と重たい気分になりましたが、夢中なひとときを与えてもらい残りの短編に期待が高まります。

「鍋の中」から「望潮」に至るまで全体的に夢うつつな気分にさせられることが多いです。何が真実でありほんとうなのか。これは記憶違い、これは本当、と思っていてもその地平が揺らぐような展開があり、大きい桟橋にいるような心持がしてきます。

そんな気持ちを最後「茸類」というこれまた短い、30ページにも満たない短編で夢うつつの意識はぱっちり。克明な描写により下手なホラーよりも激しく恐怖に叩き付けられてしまいました。

静かな田舎の宿に泊まる時に持って行って、この話に出てくるように「清冽な飲み物」である焼酎を喉に通してこの本を読みながら眠りたい、なんて思いました。

素敵な本と出合えて良かったです。

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